2020年10月09日

 今年始めから続いているCOVID-19感染症の拡大で、皆さんも「ウイルス」という言葉を頻繁に聞くようになったと思います。ウイルスとは、タンパク質でできた殻の中に核酸(遺伝子)を持つ病原体で、自ら増殖することはできず、何かしらの細胞の中でないと増殖できない性質を持ちます。簡単に言うと、ウイルスが人の体内に入って増殖するのが感染症というわけです。
 「抗体」や「抗原」という言葉もよく聞くようになったと思います。正確さを欠くのを承知で、ざっくりと説明しますと、ウイルスなど外から侵入した、言うなれば外敵が「抗原」に当たります。そうすると、体内で「抗原」を無力化するための「抗体」というものが作られます。抗体が抗原とくっつくことで、抗原は無力化されます。ただ、抗体が作られるまでは時間がかかります。
 抗体が作られ、ウイルスが体内から駆逐されて「治る」のですが、抗体の産生が追いつかずにウイルスが増殖し続けてしまえば、治らず重症化してしまいます。現状では、ウイルス感染し、発症したあとに体内のウイルスを駆除するような薬はないといっていいでしょう。発症したあとに我々ができることは「対症療法」しかありません。

 ワクチンは、感染する前に抗体を予め作ってしまおうという治療法です。現状ではウイルスに対する最強の治療法と言っても良いでしょう。天然痘を始めとして、猛威を奮ったウイルス感染症はワクチンの開発以降鳴りを潜めています。皆さんも子供の頃から色々なワクチン(予防接種)を受けてきたと思います。現在ではワクチンはウイルス感染症対策の中心となる治療法です。
 ワクチンの意義ですが、まずは接種した本人を感染症から守ることですが、もう一つ、集団を守る効果があります。例えば日本という国の中で、ワクチン接種者が多ければ多いほど、その疾患の罹患率が下がることが分かっています。ワクチンを接種することで、自分だけではなく周りの人も守ることになります。この集団を守る効果というのが非常に重要なのです。

 さて、インフルエンザウイルスの話になります。インフルエンザは毎年冬に流行を繰り返しています。インフルエンザウイルスの特徴は、いつも同じ対応のウイルスが流行するわけではないことです。ウイルスの持つタンパク質の殻の構造は微妙に変わります。その変異したタイプを「変異株」と呼びます。毎年、過去の流行したウイルスの変異株が流行し、しかも1種類ではなく数種類の変異株が確認されています。それを事前に予測して、ワクチンを作ることになります。当然の如く、簡単に言えば当たり外れがあり、そのため「接種したけどインフルエンザに罹ってしまった」ということが起こります。ただし、ワクチン接種により一定の発症予防の効果があること、重症化予防も期待できることが分かっており、毎年接種をするのが望ましいのです。
 さらに、先程お話しした、ワクチンの「集団を守る効果」を考慮する必要があります。少し古いデータになりますが、2004年に米国のCDCが出した報告では、65歳以上人口において、インフルエンザ関連死に対するインフルエンザワクチンの有効率は80%であったとされています。
 インフルエンザワクチンは、個人だけではなく地域全体の集団としての効果も重要です。つまり、家族全員、そしてできるだけ多くの皆さんが接種することで、地域全体の罹患率を下げることができるということです。インフルエンザで重症化しやすいお年寄りが罹らないためには、お年寄りだけではなく、それ以外の皆さんがワクチンを接種することが大事になります。一人ひとりがワクチンを接種することで、地域全体をインフルエンザから守ることができるのです。

 そういうわけで、毎年、インフルエンザワクチンの接種を皆さんにお願いしているのですが、残念ながらワクチンの供給が追い付かないのが現状で、非常にもどかしく感じています。昨年もワクチンが足らず来院された方に接種できない時もありました。今年はどうにか一人でも多くの方に接種して頂けるように努力してまいりますが、例年よりも接種を希望される方が多く、今後も場合によっては来院されてもワクチンがないということもあるかもしれません。大変心苦しい限りですが、なにとぞご理解の程、お願いいたします。

たかおか耳鼻咽喉科クリニック 院長 高岡卓司