2020年11月30日

 新型コロナウイルス感染症の拡大から、10ヶ月近くが経ちます。未だに収束には遠い状況ですが、情報が氾濫していて何が正しいのか、何を信じればよいのか、皆さん判断に困っているのではないでしょうか。
 世界中がパンデミックの真っ只中にある現状では、正解は誰にも分かりません。数年後、数十年後であれば詳らかになっているでしょうが、今は「おそらく適しているであろう」方策をその都度選択していくしかありません。ここで大事なのは、ある方法が適していないと分かった時に、それ以上続けずに過ちを即座に認め、新たな方法に切り替えることです。我が国がその判断を誤らないでほしいものですが…

 11月に入ってから「感染者数」が増えています。もともと寒くなれば風邪の患者さんは増えますから、新型コロナウイルス感染症も当然増えることは予測されていました。増えるのは当たり前として、その増え方が予測されていた程度なのか、制御できる範囲なのか、といったことを考えなければなりませんが、報道や情報の中で、言葉の使い方や情報の発信の仕方に引っかかることがあります。
 言葉の使い方について、各メディアを中心に「新規感染者数」といった言葉が多用されていますが、実際は「日別に確認できたPCR検査の陽性者数」です。神奈川県や東京都など自治体の公式サイトでは「陽性患者数」と表記されているのに、報道では違う言葉を使っていることになります。統一されていませんし、言葉のもつニュアンスは大きいですから、誤解を生みやすいと感じています。
 そもそも、PCR陽性者数は実際の患者数とは異なります。我が国では、「臨床的特徴等から新型コロナウイルス感染症が疑われ、かつ、検査により新型コロナウイルス感染症と診断された者」を新型コロナウイルス感染症患者と呼びます。無症状で検査により新型コロナウイルス感染症と診断された場合には、「無症状病原体保有者」となります。PCR陽性イコール患者ではありません。
 また、PCR法では検体採取や検体保存の条件などで偽陽性(本当は新型コロナウイルス感染症ではないのに陽性と出てしまう)、偽陰性(本当は新型コロナウイルス感染症であるのに陰性と出てしまう)が起こりえます。今のところPCR検査の感度(新型コロナウイルス感染症の方でPCR検査が陽性となる割合)は高くて70%程度と考えられており、検査結果の判断は慎重に行う必要があります。つまりPCR法で陰性でも、新型コロナウイルス感染症でないとは言い切れないのです。「陰性証明に意味はない」というのはこのためです。
 では「陽性患者数」の変動をどう捉えるのか、という話ですが、単刀直入に言いますと、この数字では何も判断できません。こういった数字はいわゆる「生(なま)のデータ」です。例えるならダイヤモンド鉱石みたいなもので、石の塊を渡されて、ダイヤモンドですよと言われるようなものです。大きな上質のダイヤモンドになるかもしれませんし、小さな質の良くないダイヤモンドしかとれないかも知れません。加工して、細工して初めて意味を持つわけです。
 データを扱う仕事や研究に携わった方なら周知の事実ですが、生のデータ自体を並べてみてもなんの意味もありません。それを解析して意味のある結果を出して考察することが一番大事です。
 陽性患者数についても、検査を受けた人数、年齢分布、重症度、感染経路、病院などの集団感染の人数が含まれているのかいないのかなど、様々な要素を整理して解きほぐして、初めて意味のある数字が出てきます。
 神奈川県や東京都など各自治体は「陽性患者数」だけではなく「検査実施人数」や「陽性率」など他のデータもHP上で公表していますが、多くの人の目に触れることはなく、メディアやネットで毎日見るのは「新規感染者数」という名称と数字だけと言っていいでしょう。
 このように、「新規感染者数」という言葉の使い方で誤解を生じやすいことや、「陽性患者数」だけを大きく取り上げるなど、必ずしも実情にそぐわないのではないかと感じています。
 長々と細かすぎる話を続けてきましたが、つまるところ、日々公表される「陽性患者数」の増減に、そこまで敏感にならなくて良いということです。人数が増えていたら「増えてるっぽいな」、減っていたら「減ってるっぽいな」くらいの感覚で良いと思います。この数字自体にはそこまで大きな意味はありません。患者数が減ることはもちろん喜ばしいことですが、毎日公表される「陽性患者数」が増えようが減ろうが、毎日同じように感染に気をつけて生活すれば良いと思います。
 次は、国や自治体の対応をどう捉えるかについて考えたいと思います。

たかおか耳鼻咽喉科クリニック 院長 高岡卓司