2025年11月17日
blog : 絵本のすすめ ②
ぽっぺん先生シリーズの著者である舟崎克彦さんの言葉です。
「子どもの本は将来の美意識、価値観を作っていくものです。人生のとっつきで出会う最初の芸術でなければならないわけですから、その時にいい加減なものを与えていますと、美意識自体が低くなってしまうと思います。文学の世界でなるべくいろいろな可能性を目の前になげだしてあげて、その可能性の中で子どもたちが自分で選んでいく主体性を身につけるようなことを、少なくとも文学の世界で試みていかないと、だんだんさみしい国になってしまう気がします。」
今回は日本の名作絵本を二作ご紹介します。余りに有名ですからご存じの方も多いと思います。
『モチモチの木』
斎藤隆介 作・滝平二郎 画
表紙のインパクトが凄いです。怖いと感じるお子さんも多いのではないでしょうか。しかし、子どもの本がすべて楽しく愉快であっては駄目です。世の中には怖いこと、恐ろしいこと、悲しいことが沢山あるのです。子どもたちもそれを知らないわけにはいけません。むしろ子どものうちに色々なことを知っておくことが大事なのです。
版画家、切り絵作家として高名な滝平二郎さんと斎藤隆介さんが一緒に作った絵本は『八郎』や『ベロ出しチョンマ』『花さき山』など数多くありますが、中でもこの作品は随一でしょう。画は力強く、格調高く、静謐で、そして郷愁を強く強く感じます。懐かしさとも言えます。
とにかく臆病で気の小さい豆太は爺さまと峠の小屋で仲良く暮らしています。豆太は怖くて夜中に一人で御手洗に行くことも出来ません。小屋の前には豆太が「モチモチの木」と呼んでいる大きな大きな木がありますが、夜中のモチモチの木も豆太は怖くて仕方ないのです。爺さまに連れて行ってもらわないと御手洗に行けないのです。
そんなあるとき爺さまが夜中に急病になってしまいます。豆太は勇気を振り絞って一人で峠を下ってお医者さんを呼んでくるのです。お医者さんを連れて小屋に戻ってきた豆太の目に映ったモチモチの木は…。
爺さまは豆太にこう言います。
にんげん、やさしささえあれば、やらなきゃならねえことは、きっとやるもんだ。
しかし、この絵本で子どもの心の成長などという無粋なことを考えてはいけないと思います。大人は忘れてしまった、子どもの目に映るもの、子どもが感じることが、この絵本には沢山詰まっていると思います。子どものうちにしか感じられないことがあるのです。
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『さんまいのおふだ』
水沢謙一 再話・梶山俊夫 画
日本昔話の中でも有名なお話しの一つでしょう。元が伝承の昔話ですから出版された絵本も何種類かありますが、なかでもおすすめしたいのがこの一冊です。梶山俊夫さんの味わいのある画は、おそらく子供の目にはどこか怖さを感じるのではないでしょうか。同時に、柔らかな色調で人の姿も歪んでいて面白みを感じる、不思議な感覚を覚えます。ただ怖いだけの画はいけないのですね。
山の中で山姥に捕まってしまった小僧さんは、神様のおかげで何とか逃げ出すことができます。神様からもらった三枚のおふだの力で山姥に追いつかれずになんとかお寺までたどり着いた小僧さんは、見るも恐ろしい山姥に追いかけられて恐怖のどん底です。
そんな小僧さんに対して、和尚さんは慌てず騒がず、のんびりマイペースです。お寺まで追いついてきた山姥を前にしても、力まず飄々と山姥をあしらうのです。
恐ろしい山姥、恐怖におののく小僧さん、飄々とした和尚さんという三者三様の対比、物語の緩急、それをしっかり描写して、ページの隅々まで広がる物語の世界を見事に描いた梶山さんの画に、水沢謙一さんの、方言を交えた語り口が心に残る珠玉の一冊です。
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この二冊も、子供だけではなく、大人も十二分に楽しめる世界を持っています。ぜひ手にとって読んでみてください。
たかおか耳鼻咽喉科クリニック 院長 高岡卓司
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